卦辞
人間の体の中で最も動かない場所は背中であり、心がその背中に止まる。つまり心が止まるべきところに止まることにより、身の誘惑は遂げられ得ない。よって人のいる庭に行っても人が目に入らず、その誘惑に惹かれることがないので、災いも避けられるのである。
象伝
山が重なるさまが艮である。君子はこの安定した山の象にのっとって、自分の分をわきまえるようにし、地位をこえた欲心をおこすことがないのである。
解説
艮は止まって動かないこと。動かざるごと山の如し、今は色々な誘惑にかられる時かもしれませんが、惑わされることなく誘いを固辞するとよいでしょう。また自分の身の程をわきまえ、それを超える欲心を抱かないように注意してください。そのようにすれば、災いは避けられるでしょう。
初爻 | 足を止め動かない。災いはない。正道を長く保って歩めば吉。 |
二爻 | 腓(ふくらはぎ)に止まる。ふくらはぎは股の動きに従って動くものだから、相手の不正をただそうとせず、その動きに追従してしまう。つまり相手がふくらはぎのように上に従い、こちらの言い分を聞いてくれない。心中が不愉快である。 |
三爻 | 腰を止める。無理に動こうとすれば背骨がばらばらになる。その危険からわきおこった不安が心中を焼き尽くすばかりである。 |
四爻 | 胴体を止める。他人の不正を止めるほどの力はないが、自分自身はしっかりと正しい道を保てる。災いはない。 |
五爻 | 頬骨を止める。言葉を慎む。秩序立てて筋道にあったことを話すようにすれば、悔いはなくなる。 |
上爻 | 止まるべきところにしっかりと止まり、堅実にして動くことがない。その終りを大事にするからである。吉。 |
原文
卦辞
艮其背、不獲其身。行其庭、不見其人。无咎。
彖伝
彖曰、艮、止也。時止則止、時行則行、動靜不失其時、其道光明。艮其止、止其所也。上下敵應、不相與也。是以不獲其身、行其庭不見其人、无咎也。
象伝
象曰、兼山、艮。君子以思不出其位。
初爻 | 初六。艮其趾。无咎。利永貞。 象曰、艮其趾、未失正也。 |
二爻 | 六二。艮其腓。不拯其隨。其心不快。 象曰、不拯其隨、未退聽也。 |
三爻 | 九三。艮其限。列其夤。厲薫心。 象曰、艮其限、危薫心也。 |
四爻 | 六四。艮其身。无咎。 象曰、艮其身、止諸躬也。 |
五爻 | 六五。艮其輔。言有序。悔亡。 象曰、艮其輔、以中正也。 |
上爻 | 上九。敦艮。吉。 象曰、敦艮之吉、以厚終也。 |