15.地山謙(ちざんけん)

キーワード

謙虚・謙遜

卦辞
謙虚の美徳があれば、願いは通じる。君子ならば事を終わりまで全うすることができるであろう。この卦は地(坤)のなかに山(艮)がある。低い態度の中に高い徳を有するこの象に則って、君子は多い物を減らし、少ない物を増して、均衡を保って公平を心がけるのである。

象伝
地の中に山があるのが謙である。君子は高い山が地中に入るこの象にのっとって、多きを減らし少なきを増やし、物の適量をはかって施しを公平にするのである。

解説
謙は謙虚の意味。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉があります。謙虚であることの美徳を表した言葉ですが、そもそもなぜ謙虚が美徳とされるのでしょうか?それには逆にふるまった事例を考えるのがわかりやすいかもしれません。少し極端かもしれませんが、戦国時代の織田信長を例に挙げたいと思います。彼は配下の明智光秀に謙虚とは正反対の態度、つまり横暴かつ傲慢に振る舞いました。結果、どのような結末が訪れたかはご存知のとおり。戦国一の切れ者であった彼は、本能寺で明智光秀の反乱に遭い、天下統一の事業半ばにしてあっけなく殺されてしまったのです。つまり、謙虚でないと他人からの協力を得られないのはもちろん、反発を喰らって痛い目に遭う可能性が高いのです。成功者ほど自分一人の力で成功できたとは思ってはおらず、感謝の念から頭を垂れているのです。お互いが気持ち良く協力しあうためには、謙虚であることが必要不可欠であり、この事実は時代や社会制度を超えても変わりようがありません。あなたは自分が謙虚だと思っていても、知らず知らずのうちに傲慢に振る舞うようなことがあるのかもしれません。卦辞にある通り、謙虚の美徳があれば願いは通じるのですから、振り返って思い当たることがあれば、すぐに改めると良いでしょう。

初爻謙虚な上にも謙虚に努めることによって、大川を渡るような大事をおこなっても吉である。
二爻謙虚さが鳴り響くように顔や声などの外見に現れる。正しい姿勢と言い得て吉である。
三爻労を尽くし、立派な功績がありながら謙虚な君子である。万民が心服し、終わりまで事を全うして吉である。
四爻自らも謙譲の徳を保ちつつ、謙譲の徳を持つ賢者を差し招いて事に当たることだ。そうすれば悪いことがあるはずがない。
五爻隣人と富を分かち合い、その謙譲の徳によって万民が心服するような立派な人である。このような徳をもってしてなお従わない者がいるならば、武力をもって征伐してもよろしい。その他についても悪かろうはずがない。
上爻謙譲の徳を持っているが、その志は十分に遂げられない。出兵するにしても、自分の領邑内に留めておくのが吉である。
爻辞
原文

卦辞
謙、亨。君子有終。

彖伝
彖曰、謙、亨。天道下濟而光明。地道卑而上行。天道虧盈而益謙、地道變盈而流謙、鬼神害盈而福謙、人道惡盈而好謙。謙尊而光、卑而不可踰。君子之終也。

象伝
象曰、地中有山、謙。君子以裒多益寡、稱物平施。

初爻初六。謙謙君子。用渉大川。吉。
象曰、謙謙。君子卑以自牧也。
二爻六二。鳴謙。貞吉。
象曰、鳴謙、貞吉、中心得也。
三爻九三。勞謙。君子有終、吉。
象曰、勞謙君子、萬民服也。
四爻六四。无不利。撝謙。
象曰、无不利、撝謙、不違則也。
五爻六五。不富以其鄰。利用侵伐。无不利。
象曰、利用侵伐、征不服也。
上爻上六。鳴謙。利用行師征邑國。
象曰、鳴謙、志未得也。可用行師征邑國也。
爻辞・小象